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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)626号 判決 1970年6月02日

上告人

住原誠一

代理人

佐藤通吉

被上告人

鹿児島信用金庫

被上告人

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤通吉の上告理由第一点について。

本件において、被上告人鹿児島信用金庫は、訴外亡山元敬助の相続人ら(以下単に訴外人らという。)に対する貸金債権を保全するため、訴外人らに代位して、上告人に対し本件土地売買代金の支払を求めているものである。そして、国税徴収法八条により国税の徴収について認められる優先権は、現実の弁済にあたつて確保されれば足りるのであるから、その徴収のため滞納者に属する債権に対する滞納処分が開始され、国がその取立権の行使として訴を提起した場合でも、それに先き立ち他の債権者から債権者代位権に基づいて提起されていた同一債権についての給付の訴が許されなくなるものとする必要はない。したがつて、被上告人金庫の本件訴の提起後に、被上告人国が国税の滞納処分として訴外人らの右売買代金債権を差し押え、取立権を行使して上告人に対し自らその支払を求める訴を提起したことによつて、被上告人金庫の債権者代位権行使の権限が失われるものではなく、裁判所は、被上告人らの両請求を併合して審理し、これをともに認容することは妨げられないものと解すべきである。なお、被上告人らは各自の権限に基づき訴外人らの同一債権を行使するものであつて、両請求がともに認容されたからといつて、上告人が自己の債務の額をこえて現実の支払を強制されるわけではないから、上告人に所論のような不利益を及ぼすものとはいえない。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

記録によれば、上告人の訴訟代理人は、第一審において、被上告人金庫の主張に対し、上告人自らが買主となつて訴外亡山元敬助との間に本件土地売買契約を締結した旨の事実を自白したものと認めることができ、挙示の証拠により右自白は真実に反するものと認められないとした原判決の判断は、正当として首肯するに足りる。したがつて、自白が真実に反するものと認められないことを理由としてその撤回を許さなかつた原判決の判断に所論の違法はなく、また、記録に徴しても、上告人が訴訟代理人の右自白を直ちに取り消したと認めることはできない。論旨は採用することができない。

同第三点について。

訴外亡山元敬助と上告人との間に本件土地売買契約が成立した旨の原判決の事実の認定は、その挙示する証拠に照らして肯認することができ、右認定の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(下村三郎 田中二郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)

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